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お菓子材料の知識

 和菓子技術者になるための必須知識

お菓子を作る上での甘味の成分について、

 ショ糖は、果糖・ブドウ糖とは違うものなのだ

お菓子を作る主材料のひとつ砂糖を知るには、果糖・ブドウ糖・ショ糖のことをよく理解しておくことです。
果糖・ブドウ糖は、それぞれ単独した構造で存在していますが、その構造式の一部に非常に反応し易い還元基(注1)を持っています。
ショ糖は、果糖とブドウ糖とがそれぞれの還元基で強く結合している構造になっています。
お菓子作りで加熱する場合は、この還元基のクセを理解しておくべきです。

果物や蜂蜜の中にたくさん含まれている果糖ブドウ糖は、加熱することによって甘味が大きく低下しブドウ糖は反対に甘味が強くなります。また還元基は蛋白質やアミノ酸と反応して、メラノイド反応をおこして褐変現象が起こります、いわゆる色やけです。
ショ糖は、果糖とブドウ糖との結合で出来ていますが、お互いの反応し易い還元基同士で強く結合していますので、もはや変化しにくい構造になっており、高熱にも甘味成分が安定しているのです。
 (注1) 広義での還元基とは、物質に電子が与えられ変化する基(置かれた環境によって違ったものに変化させる種)、をいう。

 甘味材料・砂糖の原料

砂糖には上白糖・グラニュー糖・双目糖など多くの種類があるが、いずれも砂糖きび(甘蔗)と砂糖大根(甜菜)を原料としている。砂糖きび(甘蔗)は、熱帯及び亜熱帯地方に産し、砂糖大根(甜菜)は冷涼帯に産するが、原料の違いによる品質の違いはあまり無い。また特殊なものとしては、砂糖楓や砂糖ヤシから作られるものもあるが、生産量も少なく独特の風味があり一般的な素材としては用いられていない。
糖の種類
特 徴
単糖糖の最小単位ブドウ糖、果糖、ガラクトースなど
二糖単糖が2個つながった状態のもの蔗糖(砂糖)  
オリゴ糖単糖が3〜6個つながった状態の糖オリゴ糖、


 甘味材料・砂糖の製造法

1) 粉砕・圧搾
原料の砂糖きび・砂糖大根を圧搾しショ糖を多量に含む糖汁を搾り取る。
2) 清浄処理
糖汁には石灰・活性炭などを用いて不純物を沈殿・清浄・脱色し糖液をつくる。
3) 濃縮・結晶化
糖液をゆっくりと加熱し、濃縮過程で種糖(注)を添加する。これを核として飽和状態になったショ糖が徐々に結晶化してくる。
(注) 種糖とは、結晶化を促すために用いられる種。種としてブドウ糖・ショ糖などの微粉。砂糖の種類によって粒径の異なったものが用いられる。
4) 分離処理(粗糖)
糖蜜中に結晶化したショ糖を円心分離器で分離する、これを原料糖(粗糖)という。この原料糖を消費地に近い精糖工場に運搬し、精製・商品化する。
5) 高純度ショ糖溶液=ファイン・リカー
精糖工場では原料糖(粗糖)を湯に溶かして、再び糖液状態に戻し、活性炭などで精製し高純度(透明度)のショ糖液=ファイン・リカーにする。
こうして出来たファイン・リカーを濃縮してショ糖の結晶化を促し、結晶粒径を調整し目的の砂糖に仕上げる。
砂糖は精製工程の多いものほど純度も高く水分・転化糖・灰分などの含有量が少なく、味も淡白でくせが無く、反対に精製工程の少ないもの程、水分・転化糖が多く、不純物として含まれる灰分が多いため、味が濃厚複雑になってくる。
6) 結晶化段階と砂糖の種類
ファイン・リカーを濃縮して析出したショ糖結晶を円心分離器にかけて、糖液から結晶を分離するが、最初に取り出したショ糖を一番糖という。
残った糖液はさらに濃縮・分離を繰り返し、最終の五番糖までショ糖を分離する。
当然一番糖は純度も高く、順位が下がるほど透明度も落ち甘味も複雑になる。
  <一番糖> 白双糖、中双糖
  <二番糖ー三番糖> グラニュー糖、上白糖
  <四番糖> 中白糖
  <五番糖> 三温糖

 砂糖の種類

黒砂糖(黒糖)(ショ糖含有率80ー88%、水分5ー8%)
純黒糖:サトウキビの搾り汁に石灰・活性炭などを用いて不純物を沈殿・清浄・脱色し糖液をつくる。この糖液をそのまま煮詰め(種糖は加えないで)固形化したもの、特有の風味と濃厚な甘みを持っている。
再生黒糖(加工黒糖):黒糖に粗糖や糖蜜(輸入糖蜜も含む)などを加えて調合加工されたものだが、純黒糖に比べ黒糖本来の風味には及ばない。

粗糖
糖蜜中に結晶化したショ糖を円心分離器で分離したもので、糖蜜からは分離されているが、精製度は低いので茶色っぽく独特の風味がある。
上白糖(ショ糖含有率98%、水分0.8%)
上白糖もグラニュー糖も、ファインリカーから結晶化された砂糖ですが、結晶化させる際にファインリカー中に添加される種糖の種類や量によって出来上がる結晶の大きさが異なります。上白糖の場合は添加される種糖が多量で、非常に微小ですので結晶も非常に細かいものになります。これではグラニュー糖との違いは有りませんが、上白糖の場合は析出した細かい結晶に転化糖(ビスコ)が付加されます。結果として、上白糖はショ糖にブドウ糖と果糖を添加したものなのです。

中白糖(ショ糖含有率95.7%、水分1.6%)・三温糖(ショ糖含有率95%、水分1.65%)
製法は上白糖と変わりませんが、中白糖は<四番糖>から、三温糖は<五番糖>から作られるために、糖液も色付き、灰分の割合も多くなりますので甘味の増したものとなります。

グラニュー糖(ショ糖含有率99.9%、水分0.02%)
上白糖でも述べましたが、グラニュー糖の場合は、結晶化の際に添加される種糖の量は上白糖よりも少ないので、結晶も大きくなります。結晶後もそのまま仕上げますので、サラサラとした状態で甘味度も上白糖と比べ甘くないのです。

白双糖(ショ糖含有率99.95%、水分0.01%)
中双糖(ショ糖含有率99.7%、水分0.03%)
白双糖・中双糖とも、ファインリカーの<一番糖>から結晶化される高純度の砂糖で、転化糖をほとんど含まないため乾いた感じで透明感があり、甘さにクセがありません。中双糖は仕上げの時にカラメルで薄く着色してありますので、淡白でも独特の風味をもっています。

氷砂糖(ショ糖含有率99.9%、水分0.05%)
氷砂糖はかなり濃いショ糖溶液(ファインリカー)のなかにかなり大きな種糖を加え、60ー70度で2週間ほどかけて結晶を大きくしたもの。

和三盆糖 和三盆で干菓子を作る<レシピ>
「竹蔗」という種類の砂糖黍(きび)を機械で圧搾し搾り汁を取り出します。搾汁された液を「あく抜き釜」で煮詰めあく抜きをし、このあと砂泥を沈殿分離させる「澄まし作業」を経て、中釜そして上げ釜と炊き進められます。煮詰めた後は、素焼きのカメに移して放置してゆっくりと熱を取り、結晶化させます。これを白下糖と呼びます
(メモ)砂糖を作る場合、結晶化と言う過程が必要ですが、煮詰めた後、ゆっくりと冷やすと砂糖の結晶に長する。反対に急速に冷やすと結晶化せずに水飴状態になります。

和三盆の舌の上でさらりと溶けるまでに極め細やかにするまでには、長年の卓越した職人技が要求される。
白下糖を搾り袋に入れて、丸一日圧力を掛け水分を抜くだけでは含まれている糖蜜のために白く仕上がりません。そこで更に糖蜜を抜くために水を少しずつ加えながら白下糖を練ってゆきます。この行程を「研ぎ」と言います。水分を含まされ、柔らかくなった砂糖は再び麻の包みに入れられ、押し槽に移され圧力をかけられます、すると水と糖蜜が一緒に絞られアクが抜けて砂糖は更に白くなっていくのです。この工程を何度か繰り返す事によって、より白い和三糖が出来上がるのです。
(メモ)
和三盆糖の白下糖も、研ぎと言う方法を用いず一般の砂糖を精製する機械を用いて精製すれば、普通の砂糖になってしまいます。和三盆での研ぎとは、不完全な精製工程を逆に利用し、元のサトウキビの美味しさをそのまま引き継ぎ、極め細かい普通の砂糖とは全く違った砂糖に仕上げてしまうのです。

ソルビット
ブドウ糖から精製した無色・無臭で甘味がある液状のもの、保水性が優れているので菓子の保湿剤として使用される。

ブドウ糖
ブドウ糖は、精製した糖液を直接粉末にするか、または固形状にしたものを粉末化したもの。
ブドウ糖は単糖類の一つで、先述の還元基をもっている。このため蛋白質やアミノ酸と共存すると、メラノイド反応をおこして褐変現象がおきる。これを利用する焼き物などには、砂糖の10%くらいを用いると効果がある。
ブドウ糖の甘味は、砂糖の75%位であるが、常温以下の溶解度はかなり低いので、多量に使用した場合、ブドウ糖の結晶が析出するおそれがあるから注意すること。

転化糖(ビスコ)
砂糖は(ショ糖)はブドウ糖と果糖とが結合した構造体であることを述べましたが、逆に砂糖(ショ糖)を溶かした液体に酸を加えて加熱するか、または分解酵素(インベルターゼ)を作用させると、砂糖(ショ糖)はブドウ糖と果糖とに分解(転化)されてしましいます。
具体的には、グラニュー糖1キロに対し、水350tを加えて沸騰させ、酒石酸0.8グラムを少量の水で溶き加え、軽く撹絆してからゆるやかに沸騰させ、容器の周囲に砂糖の糖化が出来ないようにしてから火をとめます。
これが80度前後に温度が下がってから、炭酸ソーダ0.6グラムを水に溶かして加えて中和させ急冷すると出来上がる。
転化糖は、結晶しにくい性質をもつているので、砂糖の結品を防ぐために適量使用すると有効である。また吸湿性にも優れているので製品の保湿効果も得られる。

蜂蜜
蜂が集めてきた花蜜(主にショ糖)は、働き蜂の唾液腺から分泌される転化酵素の働きによってショ糖からブドウ糖及び果糖へと変化した水分20%までに濃縮された天然の転化糖(ビスコ)でもある。
ハチミツの糖分(糖質)は、果糖(約40%)とブドウ糖(約35%)とショ糖(数%)で構成されている。またビタミンやミネラルも多く、その中には18種を越える有機酸が含まれ、pH値は約3.7前後である。無機成分(灰分)は12種類含まれ、鉄、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどを有す。また、蜂蜜にはジアスターゼのようなタンパク質を分解する酵素も含まれ、これが小麦粉蛋白(グルテン)に作用すると、タンパク皮膜が壊される。蜂蜜を使用した生地が軽く仕上がらなかったり、スポンジが沈む場合はこの酵素の影響も考えてみる必要もある。
蜂蜜に含まれる酵素は加熱することで酵素活性を阻止できるがそれなりの予備知識が必要である。
蜂蜜原液の場合120度まで加熱しなければ酵素活性を阻止できないが、蜂蜜を牛乳などで20〜30倍に薄めた上で30〜40度くらいに温めてやると酵素活性を阻止できるので、無効化した上で生地に加える必要がある。

水飴
水飴はサトウキビや蜂蜜のように天然の甘味料ではなく、澱粉を原料として人工的に加工された甘味料です。澱粉の構造はブドウ糖が細長い鎖状にズラリと並んだ状態で、この状態の時には甘味は感じられませんが、人工的に単体(ブドウ糖)あるいは麦芽糖(注)状態に分解してやれば甘味を持つようになるのです。
水飴の製法には酸糖化法と麦芽(注)を利用する方法の二種類があり、酸糖化飴の製法は、澱粉溶液に酸を加えて加水分解させたもので、分解の程度によって糖化度の異なった水飴ができる。麦芽水飴は澱粉を麦芽に含まれるアミラーゼを作用させて糖化する。
水飴はその分解途中に出来るデキストリン(注)により、独特の粘性や保水性により砂糖の結晶を防止する効果がある。
(注)麦芽糖・・・・・・ブドウ糖が2個結合したものをいう、独特の甘味をもっている。
(注)麦芽・・・・・・・・大麦を発芽させたもの、デンプン分解酵素(アミラーゼ)をもっている。
(注)デキストリン・・ブドウ糖が数十から数百個連なったもの。

麦芽水飴の風味はすぐれており、最高級品にもち米飴がありカステラに用いて特に効果がある。ほかに保湿性のよいSEがあるが、これは耐熱性で高温加熱しても容易に褐変現象を起こさないので用途は広い。

楓糖(メイプルシロップ)
砂糖楓の樹液を煮詰めて作られた茶褐色のシロップ、独特の風味からホットケーキなどに用いられる。カナダ北部・アメリカ東北部で取れる。生産量がごく少なく特殊な風味から用途が限られている。

ヤシ糖
砂糖ヤシの花茎または幹から採った樹液を煮詰めて作った黒褐色の砂糖、インド地方で製造。この糖も生産量が少なく特殊な風味から用途が限られている。

以上が菓子に使用される甘味材料の主なもので、菓子技術者の常識と心得ていなければならない。




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